ヨーロッパで日本の本を手に入れる

スイスに赴任して1年が過ぎたところだ。

何しろ、生まれて初めてのパスポートを入手したのが赴任の前年というくらい海外に縁がない人生を送ってきたので、仕事も当然ながら生活の不安も大きかった。その内の最たるものが「どうやって日本語の本を手に入れるか」だ。

 

ヨーロッパで大規模な日本人コミュニティが存在するのはドイツのデュッセルドルフくらいで、スイスでは食材はともかく、日本語の書籍を扱う店など望みようもない。かと言って、それなら英語で読もうとか、いい機会だからフランス語やドイツ語を勉強してみようとか、そういう気にはならなかった(し、別に今でもそう思わない)。読書は日常の些事から離れて別の世界、異なる分野に没入してストレスを解消することと、新しい知識を得るためなので、異国語で読書をしても日本語で読書するほどのカタルシスが得られない。そこはお前、せっかく海外赴任してるんだからがんばれよという考え方ももちろんあるが、四六時中努力はしていられない。

日本に帰国する機会は基本的には年2回、それ以上はとてもじゃないが金と時間の都合がつかない。業務で日本出張があれば話は別だが、私の現在の業務は日本はビタイチ関係ないので、そんなチャンスはない。日本出張の機会が多い人も他部署にはいるが、その人たちに「本を持ってきてください」とお願いすることはやはりできない。こちらに赴任している人間は誰も彼も日本でなら手に入る食料品や子供用品などで手一杯だ。そこにかさばる重い本を詰めて来いとはさすがに言いづらい。

 

本の買い方には3パターンある。

1:電子書籍

2:書店で棚をブラウジングしながら気になったものを買う

3:欲しいと決まっている本をネットで注文する

 

まず電子書籍、海外赴任するとなればまず考慮し、周囲からも進められる経路だろう。わたしもいろいろな人に散々勧められた。実際に漫画は電子書籍で読んでいる。が、最大の問題点は「私が読みたい分野は電書化されにくい」という点である。出版部数の限られる人文科学系は、在庫を持つ必要がない電子書籍がある意味お誂え向きではあるのだが、出版社が対応しないのでは仕方ない。もうひとつは私が電子書籍で文章を読むのがどうにも苦手だということで、これまでも何度か試してみたがやはり違和感が大きい。書いてある内容が一緒でも、紙と電子では体験が違うのだ。ロートルと、懐古主義と言われようと、私は紙の書籍と心中するしかない。

次に書店購入だが、これこそヨーロッパでは望むべくもない。日本に一時帰国した時がチャンスだ。興味のある分野の棚を文字通り舐めるように端から端まで見て歩く。そうでなければこちらで日本語書籍を取り扱う書店を探すしかない。私が知っている限りではデュッセルドルフに2軒とロンドンに1軒だ。デュッセルドルフにはまだ行ったことがないが、ロンドンの「JP Books」には何度か行った。日本の地方都市の「まちの本屋さん」程度の品揃えで、雑貨と雑誌と文庫本と新書と漫画と観光ガイドしか売っていないが、贅沢を言ってはいけない。価格も当然のことながら割高だが、贅沢を言ってはいけない。数冊買うだけでポイントカードがいっぱいになって10GBP相当のバウチャーがもらえる。前回訪問したタイミングはちょうどカズオ・イシグロノーベル文学賞を受賞したところで、彼の著書を求める客が来ていたが、当然在庫はなかった。贅沢を言ってはいけない

 

ということで残るは「ネットで注文」だ。日本のネット書店に発注して届けてもらう。21世紀に赴任して本当によかった。このルートがなければ夏目漱石ばりにノイローゼになるところだった。

海外発送してくれるプラットフォームはAmazonなどいくつかあるようだが、私はいつもhontoを利用している。

honto.jp

ポイントは

1:海外から注文する場合、日本の消費税を徴収されない

2:印刷物扱いで発送してくれて、発送オプションが豊富

3:「手数料」がかからない

4:梱包が上手い

日本の消費税など高が知れているが、何冊も買えばちりも積もってそれなりの金額になる。これを免除されるのはありがたい。

hontoの最大のメリットは2点目の「豊富な発送オプション」と3点目の「手数料不要」だ。

配送方法(海外) - ヘルプ - honto

EMS・航空便・SAL便・船便と4種から選ぶことができる。数が少なくて急ぎならEMS、多少遅くてもコストを抑えたいならSAL便と言ったところだろうか。私はたいてい大量に買って重量も増えるのでSAL便だ。EMSなどコストが恐ろしくて使えない。時間はかかるがやむを得ない。発注から到着までおよそ1ヶ月強。会えない時間が愛育てるのさ、とはよく言ったもので、1ヶ月以上待つと届いた時の喜びもひとしおだ。あと、発注してから1ヶ月経つと自分が何を頼んだかだいたい忘れているので、ちょっとした福袋状態(しかもアタリしか入っていない)も楽しめる。

3点目の手数料に関しては、それこそネット通販最大手のAmazonのページを参照いただくのがいいだろう。

Amazon.co.jp ヘルプ: ヨーロッパへの配送料

配送1件あたりの送料は確かに安い。が、「商品1点ごとにかかる手数料」が曲者だ。Amazonが販売するか、マーケットプレイス商品かで異なるが1点あたり350円から500円(発送先国によって金額は異なる)。これが積算されて最終的なコストはhontoを上回る。試しに先日のわたしの購入履歴で比較してみよう。

合わせて22冊の本を買った。文庫本・単行本取り混ぜてこの量だとまず1箱には収まらない。2個口発送になった。これは恐らくAmazonでも同様か、ひょっとしたらもっと口数が多くなるかもしれない。

書籍の税抜価格は39,830円。hontoなので税抜だが、これに8%の消費税がかかるAmazonであればプラス3,187円。

配送はSAL便で9,312円。Amazonの配送情報を参照し、仮にhonto同様2個口で届けてもらったとすると、送料と手数料で計9,900円。Amazonが在庫を持っておらずマーケットプレイス出品者からの購入が混ざったとすると手数料はもっと上がる。

さて書籍代と送料等を合わせた合計金額は、

honto:49,142円

Amazon試算:52,917円〜

最低でも3,775円の差額が発生する。それなりの金額だ。3,800円あればレストランでお夕飯にグラスワインと食後の紅茶が付きますよ。

4点目の梱包の上手さも、ひょっとしたら送料に関わって来る可能性がある。Amazonのガバガバ梱包はネットでもネタになりがちだが、その点hontoは洗練されている、異なるサイズの本をよくできたテトリスのように組み合わせて綺麗な長方形を作り、ビニル袋でくるんで水濡れ破損リスクを下げる。それを適量の緩衝材で包んでダンボール箱に収めるのだが、本のサイズに合わせてダンボール箱を切り折りたたんで梱包を最小化してくれるのだ。ダンボールの大きさ優先で、余白スペースをそのままにするAmazonではこうは行かない。

 

というわけで、海外在住の方で日本の書籍を物理で買いたい、という方にはhontoを強くお勧めします。

蛇足ながらhontoは新刊書店なので、古本は取り扱っていない。つまり、絶版本を手に入れられない。ここはマーケットプレイスを有するAmazonに長がある。古本の購入といえば「日本の古本屋」だが、惜しむらくは海外発送していないのである。サイトを探しても海外発送の文字すら見えない。絶版本が欲しければ一時帰国のタイミングで「日本の古本屋」に注文するなり古書店を回るなりするしかない。

www.kosho.or.jp

 

なお、悪名高いスイス税関だが、今回の購入も関税は徴収されなかった。4万円近くなると危ないなあ、と思っていたのだが、SALの出版物扱いにしてもらったので問題なかったようだ。未開封で届いた。税関が厳しい国にお住いの場合、Amazonなどに発注した荷物が無傷で届くとは思わないほうがいい。

 

ということでhontoをお勧めしたいがあまりAmazonに難癖をつける記事になってしまった。誰かを褒めるのに他の誰かを貶すような真似はするべきではないのだ。言いたい放題言った後だが多少反省している(だが修正はしない)。