蔵書を数える会

大した量の蔵書ではないが、よくある本棚ひと竿では収めるのが難しいくらいの数ではある。

先日、ふと蔵書を出版社別に分けたらどんな割合になるのか気になった。贔屓の出版社はいくつかあるが、実情はどんなものなのだろうか。

で、数えてはみたが、そこまで愉快な結果にならなかった。簡単にまとめます。

 

対象は日本の出版社によって刊行されたもののみとし、外国語の本、博物館や映画のパンフレットや雑誌類は除く。出版社内レーベルの分割は行わない。

数えてみたら文庫本・新書・単行本全て合わせて400冊弱。量としてはまあこんなものか、という感じ。

文庫本と新書で量の7割を超える。もう少し単行本の方が多いかと思っていたが、1冊あたりがでかくてかさばるだけであって数量自体は大したことがなかったようだ。

 

出版社別に見てみると、最多は新潮社で17.7%。文庫本の多さ(文庫本・新書の2割)がポジションを牽引している。こんなに新潮文庫ばかり持っていたのかと驚いた。あれもこれも新潮文庫だ。新潮文庫は紐栞が付いているのが素晴らしい。きちんとした栞を使う習慣がないので、本自体に紐栞が付いていない場合はアンケートハガキや刊行案内、最悪はそのあたりのレシートなどを栞にしなければならないのだ。依然として縮減が叫ばれる日本経済だが、新潮社にはこのコストだけは削減しないよう重ねてお願いしたいものである。

その後を筑摩書房(11.7%)、角川書店(8.6%)、河出書房新社(7.6%)、平凡社(6.0%)が続いてこれでトップ5だ。感覚とそこまで乖離はない。強いて言えば角川が3位というのが意外といえば意外だが、古典名作を表紙だけ挿げ替えて売り出すなど、とにかくアクセシビリティの高さには定評がある。あのシリーズ、メインターゲットはティーンと見せかけておいて、実は「昔、図書館で借りて読んだことがあるけど忘れちゃったしもう一度読みたいな」という20代後半以降なのだろう。まんまとしてやられたというわけだ。

 

リストを眺めていて気づいたが、上位4社は「チチカカコヘ」キャンペーン参加社なのである。

チチカカコヘ」と言われても何か旅行者向けのパッケージかと思われそうだが、これは出版社横断型キャンペーンで、学術文庫シリーズを持つ6社レーベルの頭文字を取ったものだ。それぞれ「ちくま学芸文庫」「中公文庫」「角川ソフィア文庫」「河出文庫」「講談社学術文庫」「平凡社ライブラリー」を指す。

チチカカコヘ 6社編集長が本気で推す教養書を集めました!|紀伊國屋書店Kinoppy

「教養はチカラだ!」と銘打ったフェアを展開し、各レーベルの編集長が他社の本を推薦していたりして、なかなか面白い。自分の興味に合う方面で、出版社の垣根を超えたこんなキャンペーンが展開されるというのはありがたい話だ。

話はずれるが私は消費財メーカーに在籍しており、マーケティングのような仕事をしている。人口減少に端を発する総需要の減少は課題のひとつで、そういう意味では出版界も同様の課題を抱えているのだろう。本が読まれない、特に人文書のシュリンクが激しい状況が長年続き、かつ将来的に状況が逆転する兆しもないという時に、競合する社が共同戦線を張りつつ健全な競争を盛り上げる「チチカカコヘ」のようなキャンペーンは羨ましくもある。もちろん、私の担当する商材(一人いちブランドが定石でブランドスイッチが起こりづらい)と出版物ではまるで性質が違うわけだが。

とにかくいいキャンペーンなので機会があったらリストを見て欲しい。平凡社ライブラリーで思い出したが、平凡社のレーベル担当営業が運営するTwitterアカウントがなかなか薄ら寒いのだけはなんとかならないだろうか。見ていられなくてだいぶ前にアンフォローしてしまった。親しみやすさを履き違えちゃいないだろうか。どうでもいいけど。

 

さて、総合蔵書数における出版社ランキングは、そのまま文庫・新書カテゴリにおけるランキングと一致する。

一方、単行本カテゴリに絞ってみると、このランキングが一変するのである。

1位に躍り出るのは青土社、カテゴリ内シェア11.4%。総合1位の新潮社が僅差の10.4%で続く。以降は河出書房新書(6.7%)、みすず書房文藝春秋が同率(5.7%)。

ここで出てきたぞ青土社。4位のみすず書房と並んで、私が最も信頼する人文系出版社だ。自分で買って揃えた自分の本棚なので当然だが、贔屓の出版社が上位に来ると嬉しくなってしまうものである。

青土社みすず書房も人文諸科学の分野では重要な出版社で、いわゆる重厚長大系を得意とする。日本人によるものも、外国からの翻訳もいずれも誠実なラインナップで、学生時代にお世話になった院生のひとりは「いつか青土社から本を出版してもらうのが夢」だと言っていた。青土社、近年の「ユリイカ」はどうもサブカル寄りなのが気にくわないが、それでもTwitterで新刊案内が回って来ると3回に1回はふぁぼってウィッシュリストに入れてしまう。みすず書房ホロコースト関連書籍の翻訳が手厚い。本当に末長く続いて欲しい2社だ。

 

改めて蔵書をカウントしてみるのはなかなか面白いものだった。買ったはいいが読んでいない本がここにもそこにも、といった塩梅で、後ろめたさを覚えないでもないのだが、積読積読でいいのである。それらは「買ったが読まなかった本」ではなく、「買ってしかるべきタイミングを待っている本」なのだ。世界は広く、本は多く、人生は短い。たとえ300歳まで意識と視界を明瞭なままで生きることができたとしたって、この世の全ての面白そうな本を読み切ることなどできない。地獄に持っていけないのは金だけではないのだし、これからも読みたい本を読みながら死ぬまでは生きる所存である。なんだこのまとめ。